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3Dプリンター:材料の収縮と反りについて

3Dプリンターで、円状のテーブルのヘリをヤスリ掛けするために、紙やすりの当て板を作成しました。
3Dプリンターでのプリントサイズ目いっぱいの大きなものをプリントしたのですが、このサイズになると材料の収縮の影響が大きかったようです。
造形物の端に反りが出てしまいました。

反りの画像

 

 

作成したもの

今回作成したのは、半径240cmの曲線をもつ長テーブルのヘリの角を丸く削るための当て板です。
板に紙やすりを密着させて、テーブルの曲面を削ります。
形状の特徴は、角を丸くするために90°に曲がった板状になっていて、
平たい部分も角の部分も半径240cmのフィットする曲線になっている形状になっています。

当て板イメージ

材料には、PLA樹脂を利用しています。
PLA樹脂は、環境にやさしく取り扱いが楽なのが利点になります。
また、サイズも大きめになるため、他の樹脂に比べて収縮率が小さいというのも選択の理由になります。
樹脂の違いによる収縮率の違いは以下の通りです。

  • PLA     0.3~0.5%
  • ABS     0.4~0.9%
  • PC    0.5~0.7%
  • PET-G 0.5~1% 

反りの原因と対策

前の項目に記述した通り、反りの原因は、樹脂の収縮率と関係があります。
反り理由が分かれば、あとで記載した対策以外にも皆さん独自の対策法を見つけられるかもしれません。

反りの原因

PLA樹脂の場合、3つの状態があります。
一つは、十分に冷えて硬くなっている状態、もう一つは、ある程度の温度で弾力性のあるゴム状の状態、最後は、完全に溶けて、自由に造形できる液状の状態です。

PLAの状態図

FDM方式の3Dプリンタでプリントした場合、プリント台は温めているため、上の図のゴム状の状態(収縮していない)にあります。
一方、プリント台から離れるほど、温度が下がるため樹脂の収縮が起こります。
プリント台近くの層はゴム状のため、上の層で多少の収縮が起きてもその力を吸収できますが、サイズが大きくなると、引っ張る力が加算され大きな力になります。
その結果、プリント台近くの層で力を吸収しきれず、反りが生じます。

反りのイメージ図

ならば、プリント台を最初から温めずにプリントすれば反りが起こらないのでは?という思うかもしれません。
その場合、反りは起こらないのですが、プリント台近くの層が収縮し、また、プリント台と接する層の弾性が失われて硬くなることで、プリント台への密着率が下がります。
そして、プリント台から造形物が剥がれてしまいます。

反りへの対策

複数の対策がありますが、造形物のサイズや、特徴、求められる精度に合わせて、対策を組み合わせて良い方法を見つけることが大事です。

プリント台への密着性をあげる

プリント台への密着性を上げる方法は、2種類あります。

  • プリント台に塗る糊を多めにする方法
    塗れば塗るほど密着性が上がるわけではありませんが、全体にきっちり塗ることで密着性を上げることができます。
    大きなサイズではない場合や、端の部分が薄いなど反りやすい形状の造形物に対して有効です。
  • プリント台に密着性の高いシートを設置する
    以前は、この方法を利用してましたが、密着性が高すぎてシートを破損してしまう事が多かったため、どうしても反りたくないときの最後の手段で利用しています。

プリンタ内の温度を上げる

夏場の暑いときにプリントした方が方が、反りにくかったという経験があり、プリンタの庫内の温度を上げると、精度が上がるのではないかと考えるに至りました。
現在使っている3DプリンタはBOX型なので、熱を内部に貯めるのは比較的容易です。
全体を密閉した状態で、プリント台を80°くらいまで上げて試したところ、反らずに印刷できたことがあります。
ただし、今回のように、プリントサイズギリギリの造形物では、あまり良い成果は得られませんでした。
内部にヒーターを置いて、室内を60°に保つようにすると、また違う結果になるかもしれません。
このアプローチについては、機会があったら試してみたいと思います。
なお、応用技として、造形物の周りを壁で囲ってしまうという方法があります。
スライサーによっては、オーズシールドを設定することで自動でデータが準備されます。
欠点は、プリントサイズギリギリの場合には造形することができない点と、壁の分フィラメントの消費が多くなる点です。
今回は利用しませんでしたが、こちらも機会があれば試してみようと思います。

オーズシールド

ラフトを用意する

ラフトは、造形物の下に造形する台のことを言います。語源は「いかだ」で、川遊びでのラフティングに使うボートもラフトと言います。

ラフトの図

プリント台の一番最初の層は、比較的安定しないためきれいに仕上がらないことが多いです。
ラフトは、造形物の一層目からキレイに仕上げるために用意します。
このラフトの1層目は、後ではがれやすくするために、下の図のように密度の低い造形がされます。
そのため、上の層で収縮が起こった場合に構造的に歪を吸収する事が出来ます。

ラフトの一層目

反りが生まれる前提で方向を考える

形状の精度が問われる向きがはっきりしている場合には、プリントの方向を変えることで、反りの方向をコントロールすることができます。
反りの向きは、基本的にはプリント台に対して垂直方向に起こるので、沿っても問題ない方向に造形することで、反りは出るものの、使い勝手に問題ないようにすることができます。

実際の印刷

今回は、紙やすりをあてがう面の角度の精度は求めるものの、他の方向に反りが出る分には問題がありませんでした。
そこで、以下の対応をすることにしました。

  • 糊を多めに塗ってプリント台への密着性を上げる
  • プリント台の温度を上げて(普段70°→80°)反りの軽減を図る
  • プリントする向きを縦にして、紙やすりをあてがう面に反りが出ないように、長手方向を立てた状態でプリントする

その結果が以下になります。

縦にプリントした写真
プリント台に対して反りが出ていますが、紙やすりを当てる面は正しい精度が保たれましたので、作業する上で問題はありませんでした。

また、3Dプリンタのもう一つの特徴ですが、Z軸(高さ方向)は一層づつ積層するのに対して、XY軸(平面方向)は、形状にそってノズルが動きます。
そのため、造形はXY軸の方が、Z軸よりも滑らかに仕上がります
最初にプリントしたもののヤスリ面が段々畑のようになってしまったのに対して、立てた状態でプリントしたものは、ヤスリ面が滑らかに造形できています。

底面比較写真


まとめ

反りをテーマにプリントの方向の工夫について記載しましたが、今回の解決手段であるプリントの方向は、プリントのクオリティとも因果関係があります。
FDM方式に限らず、光造形式の3Dプリンタでもプリント方向によって造形のクオリティが変わります。
この辺の経験を増やしていくことでプリントの精度も上げていけると思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。